小説風カクテル記事録
バーテンダー 角 輝男 
第三話 甘井野 好夫の証言

第三話 甘井野 好夫の証言

最初は冗談のつもりだったんよ…」

そう友達の道出藻 石(どうでも いし)に語るのは先日、角輝男のBARに来店したという甘井野 好夫(あまいの すきお)である。

甘井野「甘いカクテルって甘いじゃん?まぁ当たり前の話だけど」

甘井野は持ち前のチャラ男風な立ち振る舞いで証言を続ける

甘井野「俺って甘党じゃん?だけどその日は何ていうかビターな気分だったわけよ、けど甘党じゃんスイートじゃん?
、んでビターな気分なわけよ?けど甘党よ?」

道出藻はスマホをいじりながら面倒くさそうに甘井野の話に耳を傾けているが、意中の女性への返信内容を考えていて話の内容が入ってこない。

甘党じゃん、ビターじゃん、甘党じゃん、ビターじゃん…が只々しつこく右耳から左耳に抜けていく。
右から左へ…ふと、そんな歌を歌っていた芸人を思い出す。

甘井野「だからって、すんげービターオンリーは嫌なんだよね。なんかこうサッパリしたスイートさも欲しいわけよ。分かる?
んでその店のマスターかな?なんか角刈りっぽい頭の人に言ってみたわけよ」

「なんて言ったの?」道出藻は答えてはいるが目線はスマホに集中している。

甘井野「ビターとスイートがフュージョンした感じのサッパリ風味的なカクテルあります?って…そしたら…」

「そしたら?」道出藻は眠たくなってきた。

甘井野「あるって!!」


既に道出藻のスマホには意中の女性から会える連絡が来ていた。
早くこの場を離れるタイミングを見計らっていたが…熱弁を遮るのは悪い。

周りに気を遣いやすい性格の道出藻はもう少し付き合うことにした。

道出藻「何を出されたわけ?」

甘井野「えーと、、」

濃い霧がかかった記憶をかき分ける様に甘井野は必死に思い出そうとする。

甘井野「ス、スプ、スプ、、、スプモーニ!!」

道出藻「スプモーニ?なんじゃそりゃ」

甘井野「いやーこれがさー、まず苦いじゃん?けど、すんげー甘いとかじゃないんだけどサッパリしてて苦味がマイルドっつーの?飲みやすかったわけよ」

眠気も吹き飛ばしてしまう、テンションが上がると共に声量も増していく甘井野の説明っぷり道出藻は苛立ちを感じる。

甘井野はバラバラ気味だった記憶の断片が終盤のジグソーパズルの様に、繋がってきた様で回想にも勢い付く。

もう誰にも止められない。
道出藻は疲れた様に目を瞑りながら何となく耳を傾ける。

甘井野「おいしい、おいしいって言ってたら角刈りっぽい人も説明してくれてさ…」

甘井野「…って言ってたぞ」

終わったか?道出藻はよし行こうと思ったが、

甘井野「あと、確か〜、カクテル言葉ていうのがあるらしくて…」

道出藻は諦めたスマホを握りしめる握力が増していく。

甘井野「だってさ!あー俺も愛嬌のある男でいきたいぜ!」

終わった!!道出藻はすかさず

道出藻「くだらねー。あっ、前に気になる女性がいるって言ってじゃん?会えることになったから行くわ!」

道出藻はそそくさとその場を後にした。

意中の女性と合流したのち、BARでスプモーニを堪能しながら先ほど聞いたカクテルのうんちくを、悠然とそして愛嬌よく語っていたのは甘井野には永遠に秘密である。

また、そのうんちく話に愛想よく頷いていた女性。興味がなく全く聞いていなかった事は道出藻には永遠に秘密である。

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